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経営学では「両利きの経営(Ambidexterity)」という概念が注目されています。既存事業の「深化(Exploitation)」と新規事業の「探索(Exploration)」を同時に追求する経営戦略です。この概念は、組織だけでなく個人のキャリアにも適用できます。
本記事では、「両利きのキャリア」(既存スキルの深化と新領域の探索を両立させる戦略)を解説します。プロティアン・キャリアにおける乗算戦略(#06)を、さらに具体的に実践する方法論です。
両利きの経営から両利きのキャリアへ

組織における両利きの経営
スタンフォード大学のチャールズ・オライリーとハーバード・ビジネススクールのマイケル・タッシュマンが提唱した「両利きの経営」は、成熟企業が持続的に成長するための戦略的枠組みです(出典:両利きの経営の要約まとめ|深化・探索とは? — PEAKS MEDIA)。
深化(Exploitation) は、既存の事業やスキルを効率化し、収益を最大化する活動を指します。既存顧客への対応、現行製品の改善、業務プロセスの効率化などが含まれます。
探索(Exploration) は、新しい事業機会や技術を発見し、将来の成長の種を蒔く活動です。新市場への参入、新技術の開発、新しいビジネスモデルの実験などが含まれます。
両利きの経営が難しいのは、深化と探索が求める組織能力が異なるからです。深化は効率性と確実性を重視し、探索は柔軟性と実験を重視します。多くの企業は、どちらか一方に偏ってしまいます。
個人キャリアへの適用
この枠組みを個人キャリアに適用すると、「両利きのキャリア」という概念が浮かび上がります。
キャリアの深化 は、現在の専門領域において、スキルを磨き、経験を積み、専門家としての地位を確立することです。
キャリアの探索 は、現在の専門領域とは異なる新しいスキルや知識を習得し、将来のキャリアの選択肢を広げることです。
乗算戦略(アイデンティティ × アダプタビリティ)の文脈でいえば、深化はアイデンティティの強化、探索はアダプタビリティの発揮に対応します。
深化と探索のバランス

70:20:10の法則
両利きのキャリアを実践するための一つの目安が「70:20:10の法則」です。
- 70%:現在の専門領域における深化に投資します
- 20%:隣接領域(現在の専門と関連する領域)の学習に投資します
- 10%:全く新しい領域(専門外)の探索に投資します
この比率は厳密なものではありませんが、バランスの指針としては有用です。深化に100%を投じると、環境変化への対応力を失います。探索に100%を投じると、専門性が浅くなり差別化できません。
注: ここで紹介する「70:20:10の比率」は、Lombardo & Eichingerが提唱した学習と開発のモデル(実務経験70%、対話20%、研修10%)とは異なります。本記事では、この比率の考え方を参考に、キャリア開発における「深化と探索のバランス」として独自に再解釈したものです。
キャリアステージによる調整
ただし、この比率はキャリアステージによって調整が必要です。
20代〜30代前半:探索の比率を高めます(60:25:15程度)
キャリアの初期段階では、自分のアイデンティティがまだ確立されていないことも多いです。様々な領域を探索し、自分に合った軸を見つけるプロセスが重要です。
30代後半〜40代:深化の比率を高めます(75:15:10程度)
キャリアの中盤は、専門性を確立し、市場での差別化を図る時期です。深化に重点を置きながらも、探索の種は継続して蒔いておきます。
50代以降:再び探索の比率を高めます(65:20:15程度)
人生100年時代においては、50代以降も20〜30年のキャリアが残っています。既存の専門性を活かしながらも、次のキャリアステージに向けた探索が重要になります。