オモシゴキャリアの編集チームです。株式会社オモシゴが運営し、「一人ひとりが自分の能力を100%発揮し、働くことにワクワクできる世の中にする」というミッションのもと、複業やキャリアに関する情報をお届けしています。5Mix井戸端会議では、複業を実践している人たちのリアルな対話をそのまま記事にしています。うまくいった話だけでなく、迷いや失敗も含めて、これからの働き方を考えるヒントになる言葉を届けていきます。
COLUMN 学習コンテンツ
前回、人材版伊藤レポートが示した3つの視点を紹介しました。その筆頭に置かれていたのが、経営戦略と人材戦略の連動です※5。残りの要素はすべて、この連動を支える手段でした。
ところが、実現できている企業はごくわずかです。『日本の人事部』の人事白書2025によれば、戦略人事を人的資本経営と連動させる取り組みを「行っている」と答えた企業は14.7%でした。「行いたいができていない」が46.9%、「行っていない」が31.4%です。従業員5,001人以上の企業でも40.5%にとどまります※1。
最重要と言われ続けて、6年経っても1割台。この落差には理由があります。そして、その理由を最も率直に書いたのは、推進してきた側の文書でした。
2026年3月23日、内閣官房・金融庁・経済産業省は「人的資本可視化指針」の改訂版を公表しました※4。その冒頭に、こうあります。2022年の指針は、経営戦略と人材戦略の連動について「その重要性の指摘にとどまり、具体的な考え方やステップに関する記述は限定的であった」※2。
連動しろ、とは言われていた。どうやるかは書かれていなかった。改訂版は、その手順を埋めるために出されています。今回はそこを軸に読んでいきます。
連動していないと、何が起きるか
そもそも、なぜ連動が要るのか。経営戦略を実行するのは人だから、という一般論は正しいのですが、それだけでは動機になりません。連動していない状態で何が起きるかを見たほうが早いはずです。
採用と育成が、戦略と別の方向を向く。 新しい事業に舵を切ると宣言しながら、採用要件も研修体系も従来のままという状態です。人事の側に悪意はありません。前年の計画を踏襲するのが、単年度で回す仕組みの自然な帰結だからです。
投資の理由が、社外から借りたものになる。 「他社もやっているから」で導入された研修は、効果を検証する基準を持ちません。何と比べて成功なのかが、社内のどこにも書かれていないからです。
働く側が、会社の向かう先を自分の言葉で説明できなくなる。 会社が語る戦略と、自分に求められている役割の関係が見えないとき、日々の仕事は単なる作業に近づきます。
前回、「うちは研修制度が充実している」という説明が経営戦略と結びつかないまま語られるとき、それはまだ人的資源の発想のままだと書きました。連動していない状態とは、制度が無いことではありません。制度はあるのに、なぜそれをやっているのかを事業の言葉で説明できない状態です。
連動の手順:改訂版が示した3つのステップ
改訂版の指針は、経営戦略と連動した人材戦略の策定を、次の3段階として整理しています※2。
① 経営戦略における重要度の高い項目で「あるべき組織・人材の姿」を策定する
自社の経営戦略のうち、人材戦略の重要性が大きい部分を特定します。そのうえで、どのようなスキル・能力を持つ人材がどの程度必要か(人材ポートフォリオ)、その人たちの能力をどう最大限発揮させるか(組織・人材の活性化)、それらを支える経営・人事の基盤はどうあるべきか、を整理します。
② 現状とのギャップから、必要な施策を整理する
あるべき姿と現在の姿を比べ、その差を埋めるために求められるアクションや人事施策を洗い出します。
③ 経営に与える影響度を基に、優先順位と時間軸を決める
それぞれの施策について、実行された場合の効果と、実行されなかった場合に生じる経営上のリスクを分析します。その影響度に応じて優先順位をつけ、経営戦略と整合する時間軸を設定したうえで人材戦略を確定します。
この順番が要点です。現状の人事施策から出発して「これも戦略に効いています」と後付けするのではなく、将来の姿から逆算する。第2部で個人のキャリア戦略を組み立てたときと、構造は同じです。目標から現在へ引き算する考え方を、組織の規模でやることになります。
指針はさらに、事業や地域が多岐にわたる企業では、連結グループ全体で「あるべき姿」を描くだけでなく、事業セグメントや地域の単位で人材戦略を策定・実践することも有効だと述べています※2。全社で一枚の絵を描いて終わりにすると、現場の意思決定には届かないということです。
ここから先は会員限定です
この先では、デンソー・九州フィナンシャルグループ・中外製薬・味の素の実際の開示から「連動している状態」がどう見えるのかを読み解き、連動を阻む組織・言語・時間軸の3つの壁と指針が示す処方、そして働く側が有価証券報告書を読むときの3つの問いと、連動が進んだ会社との向き合い方を解説します。
未登録の方は、こちらから新規会員登録(無料)してください。
出典
※1 戦略人事と人的資本経営を連動させている企業は約1割【人事白書2025 調査結果】(『日本の人事部』)。戦略人事を人的資本経営と連動させる取り組みを「行っている」14.7%(前年13.7%)、「行いたいができていない」46.9%、「行っていない」31.4%、従業員5,001人以上の企業では40.5%。
※2 人的資本可視化指針(改訂版)(内閣官房・金融庁・経済産業省、令和8年3月23日)。改訂前の指針が連動の重要性の指摘にとどまり具体的なステップの記述が限定的であったこと、経営戦略と連動した人材戦略の策定の3ステップ、事業セグメント・地域単位での策定、人事部門の戦略部門としての機能、財務・人事の両面から一貫したストーリーとしての説明、経営戦略上の目標の時間軸を念頭に置いた目標設定、経営トップとCHROをはじめとするCXO・取締役レベルのコミットメント、労働市場のステークホルダーが経営戦略と人材戦略の連動に関心を持つこと、自社従業員・転職希望者の3割強がIR資料を参照することを収録。
※3 経営戦略と人材戦略の連動及びそれを踏まえた指標の開示事例(人的資本可視化指針(改訂版)付録①)(内閣官房・金融庁・経済産業省、令和8年3月)。デンソー(事業戦略において重要な535の専門性の定義、2030年度の開発設計技術者の目標と過年度実績)、九州フィナンシャルグループ(2030年度目標と2026年度中間目標、人材ポートフォリオのギャップと解消策)、中外製薬(成長戦略のKey Driversに対応する人材戦略、高度専門人財・デジタル人財の充足度と外部専門機関への人財輩出数)、味の素(事業利益比率1:1を目指す2030ロードマップ、2030年度のキャリア採用入社者比率30%)を収録。事例集の公表が各社の開示内容の正確性を保証するものではない旨の注記も同資料による。
※4 「人的資本可視化指針(改訂版)」の公表について(経済産業省、2026年3月23日)。内閣官房・金融庁・経済産業省による改訂版および別紙・付録①の公表を収録。
※5 持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書(経済産業省、2020年9月)。いわゆる人材版伊藤レポート。3つの視点の筆頭に経営戦略と人材戦略の連動が置かれていることを収録。